市川の本棚 〜 殿堂編

ここでは、面白い本、役に立つ本、などを推薦します。教科書とか参考書 は講義やゼミで随時紹介していますが、ここでは少々趣向を変えて、楽しみと して読める本、参考になる読み物などから、市川の趣味で推薦したい本を挙げ ました。


計算機に関する教養編

超マシン誕生

トレイシー・キダー著。ダイヤモンド社。(絶版)

新訳・新装版、日経BP社 (2010)。

時はミニコンピュータの絶頂期、あるミニコンメーカーでは社運を賭けて 新製品の完成を急いでいた。記録的短時間で新製品を造り上げた技術者たちの 闘いを描くドキュメンタリー。1982年ピュリッツァー賞受賞。何度読んでも発 見がある本。この本を読んでコンピュータ設計者を志した人は多い。必読。

闘うプログラマー

パスカル・ザカリー著。日経BP出版センター。(上/下)(絶版)

新装版、日経BP社(2009)。

ウィンドウズNTを開発したチームの苦闘を描く。DECからマイクロソフトに 引き抜かれた伝説のプログラマー(デイブ・カトラー)は、チームを編成して新 OSの開発に挑む。それは死の行進の始まりだった。必読。

ハッカーズ

スティーブ・レビー著。工学社。

「ハッカー」という言葉は、コンピュータ犯罪者を意味する言葉ではない。 真の「ハッカー」とは名誉の称号なのだ。古き良き時代のハッカーを描くノン フィクション。登場人物は書き切れないが、伝説の人物たちの若き日が描かれ る。特に、リチャード・ストールマン(GNUのあの人です)を描くエピローグは 泣かせる。必読。

コンピュータを創った天才たち

ジョエル・シャーキン著。草思社。

コンピュータ開発史の全貌を描く。コンピュータは天才一人が思いついて 世間に現れたわけではない。歴史的必然や、偶然や、多数の天才の交錯の中か ら生まれた。コンピュータは機械だが、発明者や設計者は人間だ。発明者争い では訴訟もあれば判決もあった。正当に評価されてない人もいる。読んで損の 無い一冊。

誰がどうやってコンピュータを創ったのか?

星野力著。共立出版。

誰がコンピュータの発明者か、という疑問に答えることは容易ではない。 そもそもコンピュータとは何かという疑問と切り離せないからだ。計算機研究 者である著者は、原典にあたりながらもつれた糸を解きほぐしてゆく。知的な 一冊。

スーパーコンピュータを創った男

チャールズ・マーレイ著。廣済堂。

科学技術計算に特化した『スーパーコンピュータ』は、計算機の演算性能 を極限まで絞り出すことを目的として作られている。現在のスーパーコンピュー タの原型は、事実上たった一人の天才によって生み出されたと言っても良い。 世界最速の計算機を追い続けた技術者、シーモア・クレイの生涯を描く。

コンピュータへの道

高橋秀俊著。文藝春秋社。

日本における電子計算機草創期、素子(パラメトロン)から発明して、ソフ トウェアに到るまで、計算機システム全体を手作りで生み出した研究室があっ た。それは、東京大学・高橋研究室。後藤英一先生をはじめとした多くの弟子 を育て、PC-1, PC-2を生み出した故・高橋秀俊先生が自ら語る伝記。

日本コンピュータの黎明 〜 富士通・池田敏雄の生と死

田原総一朗著。文春文庫。

池田敏雄は富士通で大型汎用機の開発に情熱を傾け、今日の富士通の基礎 を築いた技術者である。多くのエピソードを残し51歳で劇的な死を遂げた、一 人のコンピュータ技術者の生涯を描くノンフィクション。

メディアの興亡 (上/下)

杉山隆男著。文春文庫。

昔の新聞社は活字を組み鉛の版をおこして新聞を刷っていた。今の新聞は 計算機上で編集され組版される。ソフトウェア工学も確立していない昭和40 年代、当時の計算機技術でコンピュータ組版システムを開発することは、空前 の難事業だった。第17回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。良い本は古くて も古びない。

未来をつくった人々 〜 ゼロックス・パロアルト研究所とコンピュータエイジの黎明

マイケル・ヒルツィック著。毎日コミュニケーションズ。

現在のコンピュータ技術の多くは、ゼロックス社のPARC(パロアルト研究所) に源流を持っている。コンピュータ史上の伝説になったPARCについて語るノン フィクション。一読の価値あり。

インターネットの起源

Katie Hafner, Matthew Lyon著。アスキー。

インターネットは神様が作ったわけではない。人間が作ったのだ。インター ネットの発祥と、その進歩を描く。技術が解っている人が読めば面白い筈。一 読の価値あり。

プロジェクト迷走す 〜 ビッグバン<トーラス>システムの悲劇

ヘルガ・ドラモンド著。日科技連。

基本的には意志決定に関する教訓を与えてくれる本だが、巨大プロジェク トというものを未経験者にも漠然とながら感じさせてくれるという意味でも良 書。本自体の論旨より、巨大プロジェクトの黄昏を描いた叙事詩として読む人 が多いのではなかろうか。役にたつというより、心に残る本。

マイクロコンピュータの誕生

嶋正利著。岩波書店。

世界初のマイクロプロセッサは、日本からの注文で設計されたのを知って いますか。創業間もないインテルでマイクロプロセッサ開発に従事し、4004, 8080を開発、ザイロク社に転じてZ80, Z8000を設計した技術者の自伝。

ハッカーズ大辞典

Eric Raymond, Guy Steele Jr.著。アスキー出版局。

知る人ぞ知る、Jargon Fileの日本語訳。専門用語、というより業界用語辞 典として極めて便利。読み物としても、もちろん面白い。業界人必携。

マーフィーの法則

アーサー・ブロック著。アスキー出版局。

マーフィーの法則「失敗する可能性のあるものは、失敗する。」を知らな い人は、この業界にはいないだろう。まあ、それだけっていえば、それだけの 本なんですが。まあ使うことは無いが、本棚に常備してある一冊(笑)

カッコウはコンピュータに卵を産む(上/下)

クリフォード・ストール著。草思社。

研究資金が切れた天文学者(クリフ)は、計算センターで計算機管理の仕事 をしていた。そんなある日、計算機の使用料金に75¢の不一致を発見したクリ フは、一人で原因を調べはじめる。これが地球の裏側まで続くクラッカー追跡 劇の幕開けだとは思いもせずに。とにかく引き込まれる読み物で、面白い。一 読の価値あり。推薦。

ハッカーは笑う

ケイティ・ハフナー、ジョン・マルコフ著。NTT出版。

ケビン・ミトニックはコンピュータ犯罪者として有名である。本書は、ケ ビン、ペンゴ、ロバートなどのコンピュータ犯罪者を描き、その生活ぶりや背 景を追う。

テイクダウン(上/下)

下村努、ジョン・マーコフ著。徳間書店。

ケビン・ミトニックはFBIの長い追跡を巧みに潜り抜けて、潜伏しながらコ ンピュータ犯罪を続けていた。そんなある日、ケビンは戯れにセキュリティ専 門家・下村努の計算機に侵入し、下村の追跡をうけることになった。メディア でも大きく報道されたミトニック逮捕劇を、下村の立場から描く。

別な立場から同じ逮捕劇を描いた類書があるので、それと併せて読むと面 白い。何にしても技術が解らない人が読むことを前提に書いているので、何を 言っているのか解らない所も多い(翻訳も問題か?)

欺術

ケビン・ミトニック著。ソフトバンク。

ケビン・ミトニックは、決してコンピュータ技術の点で優れたハッカーで はなかった。しかし彼には優れた「ソーシャルエンジニアリング」技術があっ た。そのテクニックによって、世界でも有名なコンピュータ犯罪者になったの だった。

セキュリティのウィーケストリンクは常に人間だとミトニックはいう。ソー シャルエンジニアリングは、コンピュータを操る技術ではなく、人間を操る技 術だ。本書は、ミトニックによるソーシャルエンジニアリングの解説書である。 ちなみに原題は"The Art of Deception"、直訳すれば「詐欺の技術」である。


技術者の教養編

発想法/続・発想法

川喜田二郎著、中公新書。

技術者や科学者には、「創造性」は非常に重要な資質である。創造性は、 生まれ持った才能によるものも大きいが、技術や手法を学ぶことにより、才能 を伸ばしたり生かしたりすることはできると思われる。川喜田二郎は、自ら考 案したKJ法という技法により、創造性を開発することを提唱した。

こういう技法は、鵜のみにするより、自分なりにアレンジして各自が使い やすいように使えば良いと思う。しかし全てを自分の試行錯誤で生み出そうと すると時間と労力がかかるので、一度は定評のある手法を学んで、それから応 用すると良いのではなかろうか。

いかにして問題をとくか

ポリア著、丸善。

これまた古典的で有名な本。元々は、問題解決能力を伸ばすための数学的 思考法を学ぶことを目的とした本だが、広く科学技術分野一般に適用可能な論 理的思考法を学ぶことができる。読んでみると一々あたりまえのような気がす るが、あたりまえのことをきちんとすることは本当に難しく、それを無意識に 正確に迅速に行える人が優秀な人ではないだろうか。

この本は、ポリアが学生時代に繰り返し考えた疑問に答えるため書かれた。 はしがきより:《この解法はうまくて間違いがないように見えるけれども、ど うしたらそれを思い付くことができるだろうか。この実験はうまくて事実を示 すように思われるが、どうしたらそれが発見できたであろうか。どうしたら私 は自分でそれを思いついたり発明したりできるであろうか。》

背信の科学者たち

W.ブロード, N.ウェード著。講談社(2014)

科学史・科学哲学の本として読むことも出来るし、各種科学における研究 のダークサイドを告発する、科学ジャーナリズムの本として読むこともできる。 とにかく、研究者の欺瞞、データの捏造、学会の構造、等々、研究を生業とす る人間が読むと気分が滅入る話が続く。しかしそれでも、それだからこそ、研 究者なら一度は読んでおくべき本。

科学者・技術者の倫理に関しては類書が色々あるので、一度は読んでおく べきだろう。近年の技術者教育では、技術者倫理に関する教育が必須であると いう見解が主流になっている。

参考:

イグ・ノーベル賞

マーク・エイブラハムズ著。阪急コミュニケーションズ。

日本人受賞者も多く出て有名になりつつある「裏ノーベル賞」。トンデモ 科学も受賞しているが、それより「笑わずにはいられない真面目な学術論文」 が面白い。ネタ自体が命の本なので、敢えて内容は紹介しないが、400ページ 余りもあって読みごたえたっぷり。頭を硬くしないために、一読をお勧めする。

追記:続編『もっと!イグ・ノーベル賞』(マーク・エイブラハムズ著、ラ ンダムハウス講談社)も発売された。


技術者編

挑戦 〜 開発者だけが知っていた苦悩と葛藤の舞台裏

日経エレクトロニクス編。日経BP社。

日経エレクトロニクスの連載「開発ストーリー」を集めたもの。量から言っ ても突っ込みは足らないが、内容は盛り沢山で色々あって面白い。既に市場で の競争に敗れたものさえある。時の流れるのは速いものだ。内容:青色LED(日 亜化学)、WEGA(ソニー)、デジタル・ムーバ(松下通信工業)、液晶ビューカム (シャープ)、マイクロドライ・プリンタ(アルプス電気)、OSコン(三洋電気)、 ジャイロスター(村田製作所)。

開発者列伝 〜 あのヒット商品はこうして生まれた

日経エレクトロニクス編。日経BP社。

上の『挑戦』の続編。AIBO(ソニー)、タウ(松下電器産業)、VAIO(ソニー)、 FinePix700(富士写真フィルム)、排気が少ない掃除機(三洋電機)、ポケットボー ド(NTTドコモ)。

ファースト・フォワード

ジェームズ・ラードナー著。パーソナル・メディア。

VHS対βのビデオ戦争をアメリカ側から描くノンフィクション。日本側から 描くもの(例えばNHKのプロジェクトX)とは少々毛色が違っていて、面白い。そ れにしても、ファースト・フォワードはまずいだろう。Fast Forward (早送り) ならファスト・フォワードと書いて欲しいなぁ。

カメラと戦争 〜光学技術者たちの挑戦〜

小倉磐夫著。朝日新聞社。(朝日文庫にも収録)

アサヒカメラに連載された「写進化論」の一部を単行本にしたもの。題名 は少々恐いが、戦争の話だけではなくて、一般的な光学機器開発の話が沢山出 て来る。沢山の技術者が登場し、あちこちに心を惹かれる話が散りばめられて いる。誰に心惹かれるかは、読む人によって異るだろう。きっと自分を投射す るのだと思う。

国産カメラ開発物語 〜カメラ大国を築いた技術者たち〜

小倉磐夫著。朝日選書684。

2000年に亡くなった小倉先生の遺稿を集めた短篇集。主にアサヒカメラの 写進化論から。上の『カメラと戦争』の続編と見ることも可能。

田宮模型の仕事

田宮俊作著。文春文庫。

誰でも子供のころ一度や二度、タミヤのプラモデルを作ったことがあるの ではなかろうか(男性に限るかもしれないが)。何気なく玩具売場に積まれてい るプラモデルの裏に、これだけ面白い話が隠されていようとは。そもそも趣味 の世界の話なので、熱の入り方が違うと言えば違うわけだが……物作りの醍醐 味とか、好きな仕事をするとか、そういうことを改めて考えさせてくれる一冊。


娯楽編

永久機関の夢と現実

後藤正彦著。発明協会。

永久機関は不可能と知りつつも、発明者たちは挑戦し続けた。今日でも永 久機関の特許出願は後を絶たない。特許庁審判官の明かす、永久機関の種明か し。幾つも出て来る(エセ)永久機関の説明が、ただただ面白い。

ノーベル賞を獲った男

ガリー・トーブス著。朝日新聞社。

ノーベル物理学賞受賞者のカルロ・ルビアを話の中心として、素粒子物理 学の現場を描くノンフィクション。とにもかくにも主人公?ルビア博士のキャ ラクターが強烈で生々しい。苦みの解る大人が読むべき本。一読の価値あり。

放浪の天才数学者エルデシュ

ポール・ホフマン著。草思社。

商売柄(研究分野の点で)、そこら中でエルデシュの名前に出喰わすのだが、 実世界のエルデシュがこんな人だったとは。論文の著者が少しだけ身近に感じ られる。とにかく面白い本ではあるが、それ以上に個人的に好きな一冊。

エルデシュに関しては、関連本が色々出ている。

二重らせん

ジェームス・D・ワトソン著。講談社文庫。

余りにも有名な「DNAの二重螺旋構造」を発見してノーベル賞を受賞したワ トソン博士が、自ら語るDNAの構造解明物語。ノンフィクションのはずだが、 ほとんど小説のような語り口で一気に読まされてしまう。サクセスストーリー なので安心して読めるが、大学生より若い人にお奨めしたい。

科学の発見

スティーヴン・ワインバーグ。文藝春秋。

ノーベル賞物理学者の書いた、科学史・科学哲学の本。「現代の基準で過 去の科学者や哲学者を評価する」という、歴史学では禁止的な方法で書かれて いる。そういう意味では、本書は歴史の本ではなく、現代から見た過去の科学 者・哲学者の列伝ともいえる。余り他の本には書かれないようなことが書いて あるので、教養のためお薦めしたい。

美味礼讃

海老沢泰久著。文春文庫。

日本に本当の意味でフランス料理をもたらし、日本一の調理師専門学校の 経営者であり、料理研究家であり、1993年にこの世を去った辻静雄の半生を描 く伝記小説。直木賞作家・海老沢泰久の最高傑作の一つ(と信ずる)。

失敗の本質 : 日本軍の組織論的研究

戸部良一ほか著。(ダイヤモンド社 1984年、中公文庫 1991年)

第二次世界大戦中の経過に沿って、旧・日本軍の組織と人について追跡し た本。有名な牟田口中将の話なども出ている。こういう本を、現在、バブル崩 壊後の日本で読むと、日本人の本質は全く変っていないということに気づく。 若い人が、いま改めて読むべき本。

大本営参謀の情報戦記 〜 情報なき国家の悲劇

堀栄三。文春文庫。

太平洋戦争中に大本営情報参謀を勤め、戦後は自衛隊統幕情報室長を勤め た著者が、自らの体験を回顧しながら、日本の組織の構造的欠陥を述べてゆく。 もちろん戦記ものとして読んでも良いが、ビジネス書のような読み方もできる。 とにかく面白いし、一般人が読んでも得るところが多い本。「失敗の本質」と 合わせて読むと、なお良い。

黒鞄の訪問者

近藤八騎著。税務研究会出版局。(昭和57年)

故・伊丹十三監督が「マルサの女」を取るとき参考にしたという本。実際、 裏表紙に伊丹監督の推薦文が載っている。私の記憶が正しければ、映画「マル サの女」には、この本から幾つかのエピソードが取り込まれている。役にたつ かどうかはともかく、何はともあれ面白い本。

刑務所の中

花輪和一著。青林工藝社。(1999年)

異色漫画家が、記憶を頼りに描いた刑務所生活。漫画であるがエンターテ イメントではなく、なんとも淡々とした日常が細密に描かれる。興味深い。

ちなみに本書は2002年に映画化された。映画も良い味を出していて面白い。

失踪日記

吾妻ひでお著。イーストプレス (2005年)。

1970〜80年代に一世代を築いた漫画家が、ある日「描けなくて」失踪し、 ホームレス生活に。一度は家に戻って社会復帰したものの、またしても失踪、 再びホームレス生活。配管工として働きながら家に戻り、漫画家に復帰するも、 今度はアル中で入院してアル中病棟に収容。ここまでの波乱万丈な生活を、乾 いた目で、あくまで軽く、笑えるように描き上げる。

第34回日本漫画家協会賞大賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部 門大賞受賞。

2013年10月、なんと8年後に続編「失踪日記2 アル中病棟」出版。「失踪 日記」と合わせて読むと面白い。

にせもの美術史

トマス・ホーヴィング著。朝日文庫。(2002年)

テレビで「XXX鑑定団」などを見ていると、年中、XXの掛軸などが出 て来ては「偽物」と撃墜されている。実際、単なるゴシップとしても、美術品 の贋作の話は面白い。しかしそもそも、本物/偽物はどうやって決めるのだろ う?本物より芸術性の高い偽物と言うのはないのだろうか?偽物ってそんなに 多いのだろうか?そもそも芸術性って何なのだ?……旅行で時間があれば美術 館へ行くことにしているが、絵の善し悪しとか、芸術性とか、真面目に考えた ことはなかった。読んで良かったと思う一冊。

ついでに、フランク・ウイン『私はフェルメール』(ランダムハウス講談社) なども読むと、さらに面白いだろう。

社長をだせ! 実録 クレームとの死闘

川田茂雄、宝島社。

大手カメラ会社で20余年クレーム処理を担当した著者が、クレーム処理 の実例/分析/対処法/心得などを書いた本。世の中では余り表にでない仕事 ではあるが、誰かがやらねばならない、誰もが避けたい仕事。単なるテクニッ クに堕さず、あるべき姿を忘れない姿勢には頭が下がる。

富士山頂

新田次郎著。文春文庫。

昭和39年に完成した、富士山頂気象レーダーの建設についての小説。あく まで「事実」を踏まえた「小説」だが、著者の新田次郎は富士山測候所の勤務 経験もあり、また気象庁測器課長として富士山レーダー計画のリーダーの一人 でもあった。つまり自伝的小説ということになる。電機会社の受注競争や検査 場面など、ディテイルが非常にリアルで、引きずりこまれるように読まされて しまう。

子供の頃から新田次郎は色々読んでいるが、登山をしない限り、新田次郎 の山岳小説に本当の意味でのめり込むことはできないだろう。その一方、この 富士山レーダーの話は技術者の話でもあり、とても身近で生々しく感じる。

35年間にわたり観測を続けた富士山レーダーも、平成11年に観測を終了し、 現在では富士吉田市郊外の「富士山レーダードーム館」に展示されている。 本書を読んでから行くと、また感慨も新たではなかろうか。

査察機長

内田幹樹著、新潮社。

エアラインの機長も、定期的に試験を受けて合格しなければならない。こ の本は、チェックフライトを受ける新人機長と、チェックを行う査察機長、そ してベテラン機長の3人が、成田からニューヨークまでのフライトを行うとい う航空小説。ただ、1回のフライトを初めから終りまで描くだけなのだが、試 験を受ける側、評価する側、目の利く傍観者、という3者の観点を巧みに描き 分ける。

エアラインのパイロットという仕事自体が面白いが、それにも増して、試 験する側、される側の心のひだが細かく描かれて、引き込まれる。著者は、教 官まで勤めた元ベテラン機長で、ミステリ系の航空小説やエッセイを多数執筆。 惜しいことに66歳で亡くなってしまったが、もっと書いて欲しかった。

そのほか計画中