発表のしかた [初心者編] (ver. 1.3 / 12 Dec. 2023)


この文書は、研究室に配属された学生が、全く発表未経験である場合を 想定して書いたメモです。分野は計算機系を想定しています。 汎用性や一般性は必ずしも考えていないので、その点、御了承ください。

発表の構成

筋の通った構成になるように気をつけること。レポート等と同じで常識的 に考えれば良い。例えばプロセッサの設計実験では以下のようになる。

表紙と概要は、本でいえば表紙と目次である。非公式な発表の場では省略 することも多いが、公式な場ではどちらもつけるべきである。以下に表紙のサ ンプルを示すので参考にして欲しい。

Sample 1

サンプルには研究室が書いてないが、学生は所属研究室を必ず書くこと。

背景と目的は、起承転結でいえば『起』である。この部分は自分のした仕 事ではないので、必要最小限の内容を簡潔に述べる。問題を明らかにして解決 の方針を述べる。実験ではゴールを明確に設定すること。

仕様と設計は起承転結の『承』。『起』で提起した問題を受けて、自分の 考えた解決方法を提示する。プロセッサ設計の例では、ゴールに向けて自分の 考えた設計を説明する。

実装と評価は『転』。『承』で提示した方法を実現・評価して、それが実 際に問題を解決していることを示す。さらに他の(人の)方法よりも優れている ことを実証する。

検討とまとめは『結』。自分の方法に欠点はないか、残された問題を検討 する。さらに改良していく方法や、今後の方針について述べる。

発表のテクニック

スライドで発表する場合、枚数は発表時間に応じて決まる。 1枚あたりの発表時間は、フォーマットや字の大きさで変わるので、 一概に言えないが、以下の例を参考に考えて欲しい。

発表時間に余裕があれば1枚2〜3分程度でゆっくり説明すると良い。 発表時間が短い場合は説明時間も減ってくるが、 できれば平均90秒/枚程度は欲しい。 卒業研究の発表会など、内容に比べて発表時間の制約が厳しい場合、 結果として平均が60秒/枚以下になる場合もあるが、 初見の観客が内容を理解するには60秒/枚以下では苦しい場合が多い。

時間が不足すると早口になりがちだが、観客から聞きにくく、 理解が追い付かないので、発表としてはよろしくない。 時間が足らない場合、 早口で喋るより内容を吟味して枚数を減らすべきである。

先に述べた例で具体的に考えてみる。「表紙」では挨拶だけだし、「構成」 と「まとめ」の所要時間は平均よりも少ないのが普通なので、3枚で2分30 秒程度で足りるだろう。「背景」〜「検討」を各1枚、合計7枚として、各9 0秒で発表すれば10分30秒。発表全体では所要時間13分となる。 質疑応答もあるとすれば、通常この発表には15分必要になるだろう。

上の見積りは「時間の制約が緩い場合」なので、 短時間で要領よく発表する場合を考える。 「表紙」「構成」「まとめ」を各30秒、 「背景」〜「検討」を各60秒とすれば、合計で8分30秒。 質疑を入れて10〜12分になるだろうか。 与えられた発表時間がこれより短い場合、 内容を厳選して枚数を減らすことを勧める。

壇上に立つと誰でも緊張するので、普段より早口になる。聞きとりにくい 早口でまくしたてられれば、聴いている側は理解できずに興味を失ってしまう。 聴衆に聞いてもらえないのでは、そもそも発表の意味がない。したがって、壇 上では普段より一層ゆっくりと話すつもりでいると良い。このためにも事前に 発表内容を厳選し、時間内に余裕を持って終るように準備しておく必要がある。 その意味で、最初の段階でアウトラインを充分練っておくことは極めて重要で ある。

発表スライドの枚数は多めより少なめが絶対に良い。時間をオーバーする のは発表技術が未熟な証拠だし、厳しい場合には発表を途中で打ち切られるこ とがある。発表時間の制約で省かざるを得ない内容(図表や項目)は、補足資料 として用意しておくこと。そういう部分は聴衆や司会者から質問される可能性 が高いので、必要に応じて使うことになり、決して無駄にはならない。発表は 事前に練習できるが、質疑応答はアドリブの要素が強いので、誰でも緊張する ものである。事前に補足資料を潤沢に用意しておけば、発表者も心強いし、聴 衆の疑問にもその場で答えられるので有意義である。事前に想定される質問 (あるいは発表練習で出た質問)について、回答となる資料を事前に用意してお くことは、発表者の常識である。

原稿を見ながら発表することは基本的にない。シートが正しく作られてい れば重要なポイントは全て網羅されているはずなので、原稿を見なくても発表 できる。話さねばならぬことがシートに書いてないのは、そもそもシートが吟 味不足である証拠。1枚に9行書いてあってそれを90秒で話すなら、1行あ たり10秒しかない計算になる。シート上の項目を説明するだけで発表時間は 尽きる筈である。

シートの枚数を決め、実際にシートを作ったら、一人で実際に喋ってみて 時間を計る。時間は予定通りになっているか?長過ぎたり短過ぎれば改善する。 初めての発表であれば、テープレコーダーで録音して自分の声を聞いてみると 良い。自分が思っているより早口であったり、ボソボソとして発音不明瞭だっ たりするだろう。やたらに言い直すのも聞き苦しく、自信がないように見える。 ひいては内容の信頼性さえ疑われてしまう。ゆっくりと自信を持って話すべき だし、自信が無いなら持てるまで何度も内容を煮詰めるべきである。胸を張っ て顔を上げ、聴衆の方を向いてはっきり喋ること。

説明の時にポインタ(あるいは棒)を使って位置を示すことがある。プロジェ クタ+スクリーンの場合、レーザポインタを使うことが多い。会場の大きさや スクリーンにもよるが、レーザポインタの輝点が良く見えない(輝度が低い)場 合があるので、聴衆は「ここ」と言われても全く理解できない場合がある。ポ インタに頼りすぎてはいけない。また、レーザポインタを少し動かすだけでも スクリーン上の輝点は大きく動くので、ゆっくり動かす(なるべく止める)こと が必要である。

発表資料の作り方

プレゼンテーション支援ソフトウェアについて

最近では発表資料(プレゼンテーション資料)をコンピュータで作成するの が普通である。発表資料作成用ソフトウェアも沢山売られているが、代表的な ものはMicrosoftの Powerpointであろう。LinuxやWindowsで使える無料のOpenOfficeにもプレゼンテーション ソフトウェアが含まれている。これらのソフトウェアでは、アウトライン・モー ドで構成を練る機能や、アニメーションにより説明を補助する機能が提供され ていることが多く、積極的に使いこなせば発表の質を高めることが出来る。

オンラインで発表資料を作成した場合は、ノート型PCをプロジェクタに繋 いでオンラインプレゼンテーションを行うか、プリンタでOHPフィルムに印字 してOHPで発表することになる。

オンラインプレゼンテーションを行う場合、発表前の準備は必須である。 第一に、ノートPCから通常のビデオ端子が出ていなければプロジェクタに継ら ない。専用のケーブルやI/O拡張ボックスが必要な場合、忘れずに持って行く 必要がある。また、ノートPCの画像出力をプロジェクタのサポートする解像度/ リフレッシュレートに合わせないと、映らない可能性がある。映る場合でも、 プロジェクタの方の調整(描画範囲や位置合わせ)を行わないと全画面が映らな いこともある。発表前の休憩時間に必ず映写テストを行うこと。自分の番になっ てから、まごまごとテストしているようでは発表以前に失格である。

ノートPCを使う発表では色々なアクシデントを見るので、下に例を上げて おこう。オンライン発表が不可能である場合に備えて、バックアップ手段を用 意することは常識である。

繰り返しになるが、トラブルでに備えてバックアップ手段を用意すること は常識である!具体的な手段は、学会や発表会場の都合で決まるが、例えば以 下のようになるだろう。

シート1枚に書く行数は、会場の大きさ・発表時間・図表とのバランスな ど状況にも依存するが、通常10行前後。10行以上書くと詰まった感じになるし、 当然字が小さくなる。字が小さいと広い会場では後ろの席から見えない。文章 を書くのではなく、可能な限りキーワードや図を書くべきである。評価結果も、 プレゼンテーションでは表よりグラフで表す方が直観的である。

字の大きさについては以下にサンプルを用意したので、参考にしてもらい たい。これは割と余裕を持たせて書いた場合の例である。(内容は適当なので 参考にしないこと:-)

Sample 2

シート上のレイアウトや形式は自由なので好きにして良い。しかし必要以 上に凝ったものよりも、シンプルなレイアウトが読み易い。内容あっての形式 であるから、形式に凝る時間があったら中身を吟味する方が良いのは言うまで もない。プレゼンテーションソフトウェアを使えば、美しいデザインのプレゼ ンテーションを簡単に作成できるが、見せたいのはデザインでなく内容である。 内容への注意力をそぐようなデザインであれば、発表の害になるだけで印象も 悪い。

その他

『論文の書き方』や『プレゼンテーションの仕方』は色々本も出ているの で、一度は読んでみると良い。結局は、

と言う常識的な注意を守ることに尽きる。

参考


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